本屋に行って、次に読みたい本を探してうろうろしていると、
強いブルーとオレンジが印象的な表紙が目に止まりました。
タイトルは、『世界一流エンジニアの思考法』。
気になって手に取ってパラパラと見ると、だいたいこんな内容でした。
- 著者が一流エンジニアではなく、三流(自称)エンジニアである。
- 周囲にはスゴイ「一流」がいっぱいいる環境に入社できた。すごい勉強になったから共有したい。
- 例えば、一流エンジニアは、問題にぶつかったときに試行錯誤するのではなく、まずじっくり観察して”仮説”を立て、それを”証明する” という方法で問題解決をする。
なんだかすごく面白そう。
そもそも渡米してマイクロソフトのシニアエンジニアになれるような人が「三流エンジニア」であるかどうかはさておくとして、出てくる”技術イケメン”の考え方はどれも参考になりそうです。
実際に読んでみると、本書は「プログラマ・エンジニアのための本」ではありません。
一般的にどのような業種にも転用できそうな「仕事への向き合い方」とか「考え方のポイント」、「生産性を上げる方法」のようなエッセンスを紹介している本です。
つまり、非エンジニアであっても参考にできる内容になっています。
今回は非エンジニアの僕が、この本を読んで抽出したエッセンスの部分を共有します。
世界トップクラスの企業で見た、周りのすごい人の考え方
著者は米国マイクロソフト社のシニアエンジニアとして、世界でも最前線のエンジニアチームの一員として活躍しています。
シニアエンジニアとは高いプログラミングスキルを持つ技術者で、チームのまとめ役になる。
一般的にエンジニアは出世をすると管理職になって現場から離れることがあるが、シニアエンジニアは技術職のままキャリアアップをした人のイメージ。
こんな著者も、マイクロソフトに入社してすぐに大活躍できたわけではありませんでした。
周囲のサポートを受けたり、同僚である一流エンジニアの仕事ぶりから学んだことを、徐々に体系化しながら、数年をかけて活躍できるようになっていきます。
その中で学んだことをたくさん紹介しています。
人間の特性を活かす
どんな先進的なIT企業であっても仕事をしているのは「人」。
人の能力を最大化するためのハックを活用すると、生産性を上げることができます。
メンタルモデルという武器を持つ
メンタルモデルとは、人々が世界を理解し、予測し、解釈し、新しい状況に適用するための、自己の心の中のイメージや理論のことです。
例えるなら「カレーの作り方」のメンタルモデルは、「肉や野菜を切って煮込み、ルウを入れる」みたいな全体像のイメージ。
逆にメンタルモデルがない状態というのは「ツェペリナイの作り方」のように全く作り方がイメージできない状態と言えます。
仕事をする時も、メンタルモデルを事前に持っておくことで、複雑なシステムやルールを自分の頭の中のイメージで捉えることができるので、仕事を進めるのが早くなるといいます。
例えばコンビニの「品出し」で言えば、
「届いた商品を棚に並べる」
「古い商品は先に売り切りたいので手前に並べ、新しい商品を奥に並べる」
などがある。
このような全体像を把握せずに「古い商品を手前にする」というルールだけを断片的に聞いた新人は、そのルールを忘れてしまうと正しい仕事ができなくなってしまう。
「店は古い商品を先に売り切らねばならず、新しい商品を先に手に取られたくない」という全体像も、メンタルモデルであると言える。
WIP=1とし、マルチタスクをしない
WIP(Work in progress)とは、「今手をつけている仕事」のことです。
WIP=1というのは「今手をつけている仕事が1つである」という状況のこと。
人間はそもそもマルチタスクができるようにはなっていません。
実際にマイクロソフトの有能なエンジニアも、マルチタスクを実践している人はいないそうです。
では、たくさんの仕事を回している人は、どのように処理しているのかというと、
それは、「シングルタスクを高速で回している」という単純な方法だといいます。
時間を決めて「そのこと」だけに集中し、もし中断する場合は次にそのタスクを始めるときにスムーズに始められるように整理しておく。次のタスクに進むとき、前のタスクの残骸(開いたタブやファイルなど)は消しておき、次のタスク「のみ」に集中できるようにする。
本書の内容ではありませんが、「マルチタスクで生産性を上げることはできない」と多くの研究も証明していて、人間はマルチタスクができない、というのが昨今の脳科学の常識になりつつあります。
マルチタスクで生産性を上げるという幻想は捨てて、「今やっていること」に集中することが望ましいでしょう。
きちんと休み、体調を整える
本書の著者も、渡米後には働きすぎでスランプに陥っていたそうです。
そこで勇気を出して、実際に勤務時間を減らして自由時間と睡眠時間を増やすことで、実動時間が減ったにも関わらず生産性がアップしたことを実感したといいます。
ポイントは休み方で、単に寝たりぼーっとするだけでなく、「違うことをする」ことも重要だといいます。
例えば楽器を弾いたり、絵を描いたり、運動をするのも効果的です。
別の書籍『TIME OFF』の中でも、メンタルの回復のためには「休息」よりも「変化」が大切であることが紹介されています。
最も大事なことに集中する
とても仕事量の多いマイクロソフトのエンジニアが、どのようにして多くの成果を上げているのか。ポイントは仕事の量ではなく、価値(バリュー)に注目すること。
大事なのはバリュー(価値)
日本のサラリーマンは、働いた時間に対して給与が支払われます。そして、長時間勤務することが「頑張っている」と評価される場面は多いでしょう。
しかし本書では、実際には働く人が顧客や企業にもたらすべきなのは「価値」であると説いています。
仕事をする時に、自分の仕事の価値(バリュー)に着目することが大切で、
たくさんのやることリストの中で、組織や顧客にとって最も価値を生むものは何か?ということを念頭に考えることが大切です。
「Be Lazy」の精神で、やることを減らす
1つだけピックアップする
日本でも仕事術などにおいては「仕事に優先順位をつけましょう」とよく言われます。
一般的に、日本人が想像する優先順位とは以下のようなものでしょう。
タスクが10個あるとき、次のように優先順位をつける。
- 一番大事・・・2個
- 次に大事・・・4個
- 時間があればやりたい・・・4個
結局のところ「全部やる」のが前提であって、一番大事なものがどれなのかわからないまま、結局並べ直しただけで物量に埋もれて長時間勤務へとつながっていきます。
一方で、バリューにフォーカスした考え方では、10個のタスクのうち「一番やるべきこと」を1個だけピックアップし、それに集中します。
- 一番大事・・・1個 → やる
- それ以外・・・9個 → やらない
そして、一番大事な1個だけに集中し、WIP=1で取り組んでいくのです。
複数のことをする場合は、複数回「1つ」をピックアップする
上記の「1つだけピックアップする」というアクションは、どんなシーンでも使えるわけではないと筆者も言っています。
しかし応用はできます。
どうしてもやらないといけないことが3つある場合は、1つだけをやって終わり、というわけにはいきません。
そんな時は、一番大事なことを1回ピックアップすることを、3回繰り返す方法がおすすめです。
あくまでもWIP=1で「今一番大事なことに集中する」ことが最大の生産性を産むことがわかっているのだから、「大事なこと①、②、③」を全てデスクに並べても意味がありません。
①に取り組むとき、②と③は「やらないこと」と同義です。だから、まず①を選び、その後に②を選ぶようにするのが良いといいます。
最初は、残りタスクをスルーするのは怖いものですが、この習慣を続けていくと優先順位の低いことをやらなくても案外大丈夫なことも多いとわかってくるそうです。
さらに、シングルタスクによって効率が上がり、結果的に7個や8個くらいまで処理できるようになります。勇気を持って捨てることで、最大の成果を得られるわけです。
繰り返しになりますが、この方法は全てのケースで使えるわけではありません。しかし、この方法で重要な項目をピックアップすることで、よりバリューのある効果的な仕事をすることができます。
コミュニケーションのスキル
アメリカの凄腕エンジニアは、チームで仕事をしています。
日本の多くのサラリーマンも部署・チームで仕事をしているだろう。複数人で仕事をするなら、コミュニケーションは欠かせない要素です。
アメリカの人たちの考え方から学ぶこと
英語に敬語はないが、敬意はある
英語には敬語がないので、ズバズバと容赦なくモノを言っていると思っている日本人も多いと思います。
しかし、実際にはそうではないと筆者はいいます。
多くのコミュニケーションの中で相手と意見が合わないことだったり、伝えないといけないことがあるとき、よく「あなたが気を悪くしないでくれると嬉しいんだけど…」とか「これはあくまで僕の意見なんだけど…」のようなクッション言葉を駆使し、相手の人格を否定しないように注意する文化があるそうです。
わからないことはその場で聞く
ミーティングにおいて、プロフェッショナルの領域ではお互いわからないことも多くでてきます。
そんな時の態度にも、生産性の高いチームの特徴というものがあります。
それは、会議=ディスカッションの場で、「わからないことをその場で訊く」ということです。
日本人は「よくわからないから、後で教えて」とか、「よくわからないから後で調べておこう」とか、わからないことをその場では言わずに後回しにしがちです。
しかし、ディスカッションの場で「自分がわかっていないこと」を表明することで、伝える側も伝え方を工夫したり、事前の説明を丁寧に行うなどの対応を行うことができ、トータルでチームとしての生産性をあげることができます。
合意できないことに対する態度
ディスカッションで相手の意見と自分の意見が合わない場合に「合意できないことに合意する」ことができる力が、コミュニケーションにおいて大切であると筆者は言います。
これは国民性の出る部分だと思いますが、アメリカではそもそもいろいろな人種や国籍の人が一緒に過ごしていることが前提のため、「みんなの意見が違う」ということが根底にあるそうです。
一方で単一民族の日本人は「みんなが同じである」という前提が根底にあるため、意見が違うことに対して過剰にネガティブに捉えてしまいがちになります。
日本では話し合った結果、合意が得られない場合「相手は自分より理解力がないので合意できない」とか「なぜこれがわからないのか、わからない」といった反応になりがちです。
一方でグローバルチームの成熟したコミュニケーションにおいて「違うことは当たり前」なので、意見が違っていても「違うこと」そのものを受け入れて理解することができます。
建設的で生産的なコミュニケーションを円滑に進め、人間関係を良好に保つためにも、合意できないことに合意しつつ、相手のことを敬う気持ちが大切であることがわかります。
一般人の僕たちが応用できること
メンタルモデルを作る方法を自分なりに確立する
全体像→詳細の順にイメージする
- 初めて知る概念(新しい業務など)に触れる時に、全体像を把握してイメージで理解する(メンタルモデル)ことを意識する。
- 例えば「カレーを作る」という業務を教わる時には、まず全体の流れ(材料を切る→炒める→煮る→ルウを入れるといった大まかな流れ)をつかんでおく。
- それから細部(材料の切り方や下ごしらえの方法など)を把握することで、より全体を理解して覚えていくことができる。
マルチタスクをしない
- たくさんのタスクがある場合でも、WIP=1を守ってマルチタスクをせず、重要なことに集中してこなしていく。同時にやるのではなく、順番にこなしていくイメージ。
- 何を一番にやるべきかを迷ったら、やることリストの中から一番大事なものを1つだけ選び、それに集中する。
きちんと休み、体調を整える
- 長時間の勤務や、睡眠時間を削って無理をすることは続かない。世界トップクラスの生産性を出しているワーカーはしっかり寝て、しっかり遊んでいることを肝に銘じておく。
- 単に休むだけではなく、違うことをする。運動したり絵を描く、楽器を演奏するなど、手を動かすものが良いと著者は言う。
勤務時間を伸ばすことではなく、バリューを出すことを重視する
- 日本のサラリーマンは長時間勤務をしている方が偉い・頑張っているという風潮があるが、これでは生産性が上がらず、持続可能な働き方ではない。同じ時間内でバリューを出すことが最も重要だと考えて、「要らない仕事はしない」という思い切りも重要である
相手を敬い、生産的なコミュニケーションをとる
- 意見が対立したり、自分から見て別の方法があると提案する場合でも、相手のことを傷つけないように注意を払う必要がある。特に日本の管理職は「権威職」であるという誤った認識を持つ管理職も多く、部下に敬意を払わないことが偉いことだと勘違いしている人も多いが、これは全く世界では通用しないし、今後は日本でも通用しなくなっていく。
- コミュニケーションにおいて、相手を否定するのではなく別の意見を述べることや、同意はできないけれど理解する、といった段階があることを理解する。周囲の人がそれを理解してくれて、同じ認識でコミュニケーションを深めることができるのが理想だが、どうしても理解が得られない場合はその人とは距離を置いたり、最悪の場合は職場を変える方が良い場合もある。
まとめ
本書は、アメリカのエリートがやっている普遍的な考え方・仕事術を紹介したものです。
たくさんのエリートが紹介され、それぞれが「強み」を活かして仕事をしています。
本書を読むときに気をつけることは、「これら全てをやっている人がいる」のではなく、各自がそれぞれの強みやスタイルによって個性・キラリと光る武器を持っているなかで、それらを1つずつ紹介されているので、どれか参考になるかもしれない。というスタンスで読むことです。
これら全てを実践しないとダメというわけではありません。
本書を読んで、1個でも2個でも参考にして、自分に取り込める考え方を得ることができれば、本書の値段くらいは余裕でペイできます。
僕らがマイクロソフトに入社しようと思うと、大変な時間の学習が必要になります。ましてアメリカのマイクロソフトの仕事ぶりを見にいくなんてことは、そうそうできることではありません。
ほんの2千円弱で、世界一流の生産性を発揮する頭脳の片鱗を垣間見ることができるという意味では、非常にコスパの高い1冊だと思います。
また本書には、「複雑なシステムを仔細に理解して覚えているスゴイ人」「問題解決が速すぎるスゴイ人」「チームをモチベートするのが上手いスゴイ人」など、さまざまなスゴイビジネスマンが登場します。
自分がどのようなタイプであれ、参考にできそうな内容があると思います。
ぜひ本書を手に取っていただき、自分にあった考え方を探してみてください。
今日はここまで。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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