「好き」の反対は何ですか?
「成功」の反対は何でしょう?
本書を読むと、この質問に的確に答えることができるようになります。
ひとことまとめ
この本を一言で言うと、
世界の見え方を一変させる「抽象度」の概念を紹介し、その取り扱い方を教えてくれる本です。
二行要約
この本で言われていることは、
- 人間の知的能力は情報量×抽象度で表すことができる。抽象度の概念を理解して情報を取り扱うことで、コミュニケーションのギャップを解消することができる
- 本書では具体と抽象について、さまざまな実例を交えて「ありがちなコミュニケーションエラーと対処法」「抽象的視点を持ったときの注意点」など、多角的に新しいモノの見方を提案している
この時点では、まだ「?」という感じだと思います。
わたしがも最初は「何を言っているんだ……?」と思いましたが、
一通り読んだあとで戻ってくると、なるほど納得できました。
具体⇔抽象を理解するための考え方3選
具体/抽象ピラミッド
ここで、本書の根幹となる考え方である「具体/抽象ピラミッド」を紹介します。
上は本書内で提示されている具体/抽象ピラミッドの図です。これだけだと何のことかわかりませんね。わかりやすい例で解説してみます。
横は情報量、縦は抽象度
ピラミッドの下に行くほど、情報は具体的になり細かくなる(種類)
ピラミッドの上に行くと、それらを含む抽象的概念になる(分類・カテゴリ)
ここで、「3種類のパン」を抽象化して「パン」という言葉にたどり着きます。
次の図で「パン」を具体化して、より多くの種類を列挙します。これが「知の発展」です。
「食パン」という知識しかない状態で食パンを見つめていても、「あんぱん」は思いつかない
一度「パン」という抽象を経由して、「別のパンはどんなものがあるか?」を考えたときに初めて、
他の種類のパンを連想することができる
さらに抽象度をあげていく
さらに「パン」よりさらに抽象度を上げ、たとえば「小麦粉を原料とする食品」というくくりを作れば、「うどん」や「シチュー」も仲間になる
さらに抽象化して「食品」という分類まで引き上げてしまえば
「おにぎり」や「サバ缶」も「パン」の仲間であると言える
言葉の「抽象度」がどの高さにあるか意識する
このように、言葉には抽象度という考え方があります。
このことを知っているかどうかで、言葉の見え方は大きく変わります。
抽象度がズレた会話の例
「その言葉の抽象度がどこに位置しているのか」を考えて言葉を取り扱わないと、
以下のような会話が発生することになります。
A「ねえ、パンは好き?」
B「いや、そうでもないけど……唯一メロンパンは好きかな」
A「へー、じゃあパンが好きなんだね」
B「いやいや、パン全体が好きなわけじゃないんだよ」
このように例えると非常に滑稽ですが、実際に仕事の現場やさまざまなコミュニケーションにおいて、このように抽象度の違う言葉を混同して使ってしまい、コミュニケーションに齟齬が発生しているケースは存在しています。
上司からの指示
抽象度の概念は、上司・部下のコミュニケーションでもしばしば問題になります。
指示が抽象的で、期待も抽象的
例:上司「先月の業績について、会議資料を作っておいて」
→詳細なページ数や内容、使うデータなどは部下に任せ、実際に出来たものについても「先月の業績について説明できる情報が入っていればOK」と思っている
この例では、部下に大きく裁量をもたせ、部下の経験や判断に任せるという姿勢をもつ上司像が見えてきます。
このように抽象的な指示をして、抽象的な期待を持っておくことは一般的に「部下に任せることがうまい上司」にみられる考え方で、一定の信頼関係を感じさせます。
指示が抽象的で、期待は具体的
例:上司「先月の業績について、会議資料を作っておいて」
→部下が作成すると、「ここの文字の大きさが小さい、ページ数が多すぎる、必要な情報が足りていない」など、細かい部分を指摘しはじめる
指示は抽象的なのにいざ作ってみると細かい箇所のこだわりを指摘してくるパターンです。
いわゆる上司からの「丸投げ」状態であって、部下は「上司が本当は何を望んでいるのか」がわからずに時間を無駄にすることも多くなります。
最初に伝えた指示と期待の抽象度が違うため、上司もイライラしていますし、部下も「最初から言ってくれよ」と思っています。
指示は具体的で、期待は抽象的
上司「会議の資料なんだけど、だいたい3ページくらいで先月の業績と来期の予算を説明する資料を作っておいて、1ページ目に先月の実績、2ページ目は予算との乖離と原因、3ページ目は予算で。折れ線グラフも使って見やすくして……」
→といいつつも、実際に出来た資料でそれらが満たされているかはあまり確認せず、会議の場で滞りなく使えれば良いと思っている
このケースは、具体的に細かい指示を出すわりに、実際にできたものにはそんなに口出ししないパターンです。
このような伝え方はマイクロマネジメントと呼ばれ、部下の仕事に過干渉してしまう現象です。
部下に任せきれず、不安を抱えてしまう上司にありがちな行動で、
実際にはもっと部下に裁量をもたせて、任せたほうが良い結果になることもあります。
指示が具体的で、期待も具体的
上司「会議の資料を作る時はこのテンプレートを使って、〇〇から取得したデータをXXのグラフにして。毎月だいたい3ページくらいでまとめて、時間は10分程度で話せるように内容をまとめておいて」
→実際に、伝えたことができているかどうか確認する
上司が期待することを細かく伝達し、実際にできているかどうかを確認するので、新人の教育に向いています。
実務を引き継いだり手順を教えるタイプのコミュニケーションになります。
このタイプの上司は「面倒見の良い上司」ということになります。
教育係としても向いているスタンスです。
部下が育っていくにつれて、徐々に指示の抽象度を上げていくことが必要になります。
折り曲げの法則
ここでは、ある言葉の反対の意味の言葉「反意語」について考えます。
抽象度によって、言葉の見え方・捉え方は変わってきます。
成功の反意語は何?
具体で見れば、「失敗」
抽象で見れば、「どちらでもない」
ものごとの結果という具体的な範囲で見た時、成功の反対は失敗です。
このように、より抽象度を上げてみたときには「挑戦した、結果が得られた」という見方をすることができます。そのため、成功の反対は「どちらでもない」となります。
このことからわかるように、抽象的なものの見方をすると世界が全く違って見えることがあります。
成功している社長なんかが「いちばん良くないのは、何もしないことだ」「失敗は悪いことじゃない、チャレンジしたのが素晴らしいんだ」などと言うことがありますが、奇をてらって言っているわけではなく、抽象度の高いものの見方をしていて、本当の意味で「何かしらの結果が得られたのだから、良いのだ」と思っているということです。
好きの反意語は何?
具体で見れば「嫌い」
抽象で見れば「興味がない」
同じように、「好き」の反意語も抽象度によって異なることがわかります。
たとえば、嫌いな人のことを四六時中考えてしまうのと、好きな人のことを四六時中考えてしまうのは、抽象的に見れば「その人のことを考えている」という点において同じことです。
好きの反対は無関心である。という言葉は、このように説明することができます。
具体⇔抽象で世界は変わる
本書のはじめに、「具体⇔抽象のトレーニングを通して、コミュニケーションギャップをなくす」ことが本書の目的であると語られています。
実際に読んでみると、コミュニケーションのギャップの原因の多くは抽象度に差があるために発生していると考えることができます。
(メロンパンだけが好きな人 のことを、パンが好きなんだね。と理解した例のように)
これからのコミュニケーションにおいて、
自分の発言と相手の発言の抽象度が揃っているか?
揃っていないとしたら、その差は意図したものか?
相手にその意図は伝わっているか?
といった検討を行うことが大切だと感じました。
抽象度の概念を知っているかどうかで、使う言葉の質や、
相手にきちんと伝わるかどうかの結果に大きく影響することは想像に難くありません。
あと語り
「君の説明は抽象的でわからないよ。もっと具体的に説明してよ。」
まるで抽象的であることが悪いことであるかのように、具体的であることが正しいかのように使われる「具体的」「抽象的」という言葉。
しかし、その実際は「ミクロで見るか」「マクロで見るか」の違いでしかなく、
「すずめ」と見るか「鳥」と見るか、「大根」と見るか「野菜」と見るかの違いでしかありません。
どちらが良いか、という話ですらありません。
たとえば、「野菜炒め1人前」というメニューがあればだいたい皆が同じものを想像できるのに、
「一口大のキャベツ、もやし、約3cmのニラ、短冊切りのにんじん、しめじ、豚バラ肉、きくらげを塩コショウと鶏ガラで味付けしてごま油で炒めたもの、約300g」とか書いてあったら、まどろっこしいですよね。過度な具体化です。
具体と抽象はケースバイケースで適切に使われるべきであって、
適切に使うためにはまず「具体・抽象というレベルがある」ことを知っておく必要があるというわけです。
この手のたとえ話は、それこそ大喜利のように無限に考えることができそうですが、
実はそれを考えていくこと自体、本書で提案されているトレーニングの根幹になっています。
本書はAmazonで買っても結構安価で購入できるわりにとっても学びの多い1冊でしたので、
ぜひこの記事で興味を持ったら読んで見ることをおすすめします。
ほんとうに世界が変わって見えます。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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