自分自身の生産性が上がらない、チームでの足並みが揃わない、会議がいつも迷走して迷子になる…。
そういった仕事の悩みを解決するヒントにすべく、仕事術の本も読んでみることにしました。
まずはGVで数々のスタートアップをサポートしてきたジェイク・ナップ氏が書かれた、SPRINT 最速仕事術 を紹介します。
ひとことまとめ
本書を一言で言うと、
GV(Google Ventures)でさまざまなベンチャー企業のサポートをしてきた筆者が、最短最速で理想的なプロジェクトを進める方法を紹介してくれる本です。
二行要約
この本の内容を二行でまとめると、
- 既存の仕事のやり方では、各自が多少うまくやったところでチームの生産性には限界がある
- 無駄を無くし、メンバーの力を最大限引き出しながらプロジェクトを進めることで、数カ月分の成果を1週間で出すことができる。その方法を教える。
解説
著者であるジェイク・ナップ氏は、GV(Google Ventures)で様々なスタートアップの業務改善に取り組んできた人物です。
時間オタク・生産性オタク・実験オタク
彼は「時間術と生産性のオタク」を自認しており、ありとあらゆる手法で自身の生産性をアップさせるべく実験を重ねていました。
集中して仕事に取り組むには、朝飲むのはコーヒーが良いのか?紅茶か?朝に運動したほうが良いのか?昼休みの運動は効果的か?
ジェイク・ナップ
従来のチームプロセスでは成果は出ない
2007年にグーグルでチームプロセスの改善に携わるようになり、そこでとある気づきを得ます。
過去のワークショップの結果を見直してみると、ある問題に気づいた。ワークショップのあとで実行に移され、成功したアイデアは、喧々囂々のブレーンストーミングで生み出されたものではなかったのだ。最良のアイデアはちがう場所で生まれていた。
ではどこで?
参加者は、それまでと変わらない方法でアイデアを思いついていた。机に向かっているときや、カフェで誰かを待っているとき、シャワーを浴びているときなどだ。一人で考えたときのほうがよいアイデアが浮かんでいたのだ。ワークショップの高揚感がさめると、ブレーンストーミングのアイデアは輝きを失っていた。
こうして従来型の会議、ブレスト、ワークショップでは限界があると気づいたジェイクは、さまざまなプロジェクトの改善に携わる中でいろいろな方法を試し、実際に結果を見ながら実践的なメソッドを確立していきました。
本書では、最高のチームで短期間に集中して取組む「短距離走=スプリント」というメソッドを、完全に再現できるレシピ付きで紹介しています。
このレシピを日本企業ですべて実行することは難しいですが、
要所要所にヒントになるフレーズがちりばめられています。良いところを取り入れて活用する姿勢で読み進めていきます。
厳選ポイント3つ
プロジェクトの初めに、ゴールを決める
解説
本書で紹介される「スプリント」メソッドは、月曜から金曜までの5日間を使って短期間で成果を出す手法です。5日感しかない時間のうち1日を使って方向性とゴールを決めます。
月曜日をまるまる使って、方向性を決める
スプリントでは月曜日をまるまる使って「このスプリントで何を決めるのか」をしっかりと決定することが推奨されています。
- 「なぜこのプロジェクトやっているんだろう?」
- 「今から半年後、一年後、5年後にどうなっていたいのか?」
未来にどうなっていたいかを考えて、ゴールから逆算し、今週取り組む内容を決めていきます。
5日間をまるごと使って思い切り力を集中して取り組むプロジェクトですから、
間違った方向に全力疾走しないよう事前にゴールを決定しておき、同じ方向を目指すことが必要ということです。
これを行っておくことで、次の日からの議論で無駄なことに時間を使わずにすみます。
重要なことより、「最重要なこと」に集中する
間違った問題に集中しないことの重要性を、本書では「アポロ13号」の話を引用して伝えています。
アポロ 13号の物語は有名だが、念のためにいっておくとこんな話だ。宇宙飛行士が月に向かい、宇宙船の酸素タンクが爆発し、みんなが固唾を呑んで地球への帰還を見守る。(中略) 目標は明確だ。宇宙飛行士を無事帰還させるためには、彼らを生かし続け、正しい軌道をずっと維持させなくてはならない。(中略)彼らが何よりも先にやったのは、宇宙船が軌道を外れて深宇宙に向かわないよう、進路を修正することだ。次に宇宙飛行士が呼吸できるよう、二酸化炭素濾過フィルターを改造した。それからようやく、安全な着陸に注意を向けたのだ。
(中略)もしも管制センターが最初にエアフィルターの心配をしていたら、軌道修正のわずかなチャンスを逃し、その結果宇宙船アポロ 13号は軌道を外れ、遠い冥王星のほうへ逸れてしまっただろう。
軌道を外れそうな宇宙船、酸素がなくなる船内、安全な着陸。課題は山積みで、どれも重要に見えます。一見重要に見える話題にミーティングが引っ張られて脱線することはよくあること。肝に銘じておきたい話ですね。
「どうすれば?メモ」をつくる
解説
プロジェクトを進めていくにあたって、現場の人に「現在の問題点」を聞くプロセスがあります。
問題点をすべて「質問形式」にする
現場で「〇〇の作業が煩雑すぎる」のような問題があるということが判明したら、
プロジェクトメンバーが各自のメモに「どうすれば、〇〇をシンプルにできるだろう?」と書きます。7人程度のチームで、一通り現場の意見を聞くと、だいたい100枚程度の「どうすれば?」メモができるそうです。
流石に100個の質問をすべて把握して回答することはできないので、絞り込んでいきます。
メモを全部壁に貼り、似たような分野の質問に分類していきます。分類方法は都度異なり、みんなで分類していくうちにカテゴリが定まっていくと言います。
そうして分類した質問をみて、「一番役に立ちそうな質問」にそれぞれが投票します。多くの票をあつめた質問こそが、業務プロセスの改善にとって重要な疑問になります。そこから、さらにその質問をもとにスプリント全体の課題を決める作業に移っていきます。
本書の中で比較的簡単に取り入れることができるノウハウは、この「どうすれば?メモ」というアイデアです。
実際に発生している問題を「どうすれば」から始まるクエスチョン形式にすることで、前向きなエネルギーが生まれます。
中断しない、連続して行う
解説
スプリントは、連続した5日間のスケジュールを全員で一気に押さえて走り抜けるメソッドです。
仕事に中断を挟むと生産性が下がることについては、誰しもが実感できることでしょう。
例えば週末に行った会議の内容や、そこで決めたタスクを週明けになるとボンヤリとしか思い出せず、なんとなく熱意も下がっている……。
これを回避するために、スプリントメソッドは5日間という期間を設けています。
ジェイクは生産性オタクで実験オタクなので、スプリントでも別の期間設定を試してみたそうです。
結果、10日間の設定では間に週末が挟まることで連続性が失われてしまい注意散漫になり先延ばしが発生し、生産性が低下したといいます。
この連続性の考え方は、実際の仕事に取り入れることができます。
たとえば会議で持ち帰りの宿題があれば、直後にその場で必要なメンバーを集めて、時間を開けずに話し合ったり、日常的にメールや雑事での中断をできるだけ減らして一つの仕事に集中できるように、スケジュールを作成するなどです。
総括:これからの行動1個
問題を考えるときに「どうすれば」とメモに書く
本書において、どこの部分が参考になるかは各自の仕事内容にもよると思います。
(人によっては「お昼を少なめにする」というTipsが刺さる人も居るでしょう。)
わたしの仕事は「〇〇しなければいけないが、どうしよう?そもそも可能なのか?」みたいなことを考える仕事が多いのですが、厄介な問題ほど「そんなことはできない」という答えを出したくなることが多くなります。
そんなときに、この「どうすれば?」メモを使って問題を質問に落とし込み、前向きに考えを進めることを実践してみるのは効果的だと確信しています。
あと語り
生産性の高い仕事は、しんどい
率直な感想ですが、スプリントメソッドってめっちゃしんどいと思うんですよね。
一週間ガッツリスケジュールを開け、1日6時間という限られた時間で、チームで肩を並べて、ひとつのプロジェクトを走り抜ける。一時たりとも力を抜いて参加できるような仕事ではありません。
短時間で全力疾走、頭を使い、気分をポジティブに保ち、体を最高のコンディションに調整し、仲間とコミュニケーションし、5日間で成果をあげなければなりません。
なにかに熱中して取り組むと頭がぽかぽかしてくる感覚があると思いますが、おそらくスプリント中はずっとあんな感じなのでしょう。
短距離走的な仕事の仕方ができる会社は少ない
スプリントで採用されている「短時間で最大の成果を目指す」という短距離走的な働き方は、日本のオフィス環境ではなかなか見られないと思います。
いまだに日本では時間による勤怠管理・時間管理が主流で、8時間以上働くことを前提に仕事を組み立てていくので、どうしても「短距離走」の感覚というものは薄れていきます。
そんな環境のなか、本書の内容を再現し実践するのは、ほとんどの人にとって不可能でしょう。
社長や経営陣を巻き込んで社内で取り入れていく決意でもしない限りは、いち社員の提案で開始できるような内容ではありません。
そのため繰り返しになりますが、本書の内容は部分的に取り入れる「つまみ食い」スタイルで読むのが良いでしょう。
世界トップクラスのメソッドをつまみ食い
日本で実行するのは非現実的であるとはいえ、世界トップクラスの企業で培われたノウハウですから、
取り入れやすいところだけでもつまみ食いするのが、本書との良い距離感です。
いつか自分がチームを持ったとき、または独立してチームを率いる時など、チームで仕事を進めていく立場になったときには、ぜひ全員の合意をとって実験的にチャレンジしてみたい内容でした。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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